秒針と心臓の音

冬は寒くて夜も長いのでナーバスになる。数々の思い出の欠片が浮かんでは消え、たまにその一つを掴んでみては一瞥し、またリリースする。そういうことを繰り返す。

この頃、亡くなってしまった同級生の女の子のことを思い出す。それは多分、友人から彼女の死を報されたのが冬だったからだろう。

大学2年の春、彼女は新入生歓迎のステージで、ショートカットの金髪を揺らしながらベースを弾いていた。キュートなルックスとは対照的な、その激しく掻き鳴らすような勇ましいステージングに釘付けになってしまったのをはっきりと覚えている。

彼女は、僕が入会してすぐに辞めてしまった軽音サークルに所属しており、言葉を交わしたことはあまりなかった。でも、彼女は、僕の友人たちと一緒にバンドを組んでいたので、なんとなくどんな子なのかを知っていた。 また、好みのバンドも似ており、勝手に親近感を覚えていた。ボーイッシュな外見とは裏腹に、内省的な音楽を好んでいたようだった。

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知り合いと呼ぶにもちょっと遠いような関係だったかもしれないが、彼女に対する澱のような感情が、このナーバスな季節と相まって浮上してくる。彼女について、友人たちから聞いた断片的な情報しか知らないという中途半端さが、却ってもやもやを募らせているような気がする。

彼女は、学生時代の僕の憧れのベーシストだった。今でも華麗にベースを弾く姿がリアリティーを持って胸の内に甦ってくる。そして、その映像は、年々明瞭に浮き彫られていく。それは、彼女がそのパッション溢れるステージでの躍動とはまったく対になるような生の終焉を迎えてしまったからなのかもしれない。

 

浮かび上がる映像は何かを語りかける。それがまた、輝かしい青春のワンシーンであるのが一層、胸をきつく締め付ける。あのステージの終演後、声をかけれずじまいだったこと、彼女と友達になれなかったこと、そして、抱えていただろう不安や孤独を共有できなかったこと、、今でも勝手な後悔が残っている。

きっと、来年も、再来年も、寒い時期に彼女のことを思い出すだろう。

 

彼女が亡くなって、今年で4年が過ぎる。